太閤街道殺人事件
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翌朝、オンボロの愛車で自宅を出発した。目的地は東海近畿電力の知多研修所。

昨夜、「名古屋の電力会社の会長」「美術品コレクター」「知多半島の研修所」でネット検索。会長は東海近畿電力の田ノ上会長。研修所は東海近畿電力・知多研修所であった。

田ノ上会長は名古屋財界のドンの一人。社内では天皇と呼ばれ、絶大な力を持っていた。また、建設中の研修所は「会長のコレクションを集めた美術館」という話も出ていた。
      
自動車道を乗り継ぎ、目的の研修所に到着したのは午前9時前。住所は愛知県南知多町。
  
名古屋から南へ50キロ、知多半島の先端に位置する風光明媚な町である。初夏のような日差しが波と衝突、海はキラキラと輝いていた。丘の上の建物は噂どおり美術館のようであった。
  
外観はすでに完成していた。しかし、玄関先に工事車両。内装工事の作業員が資材搬入のため、忙しく動き回っていた。
      
岩田はカメラを首から吊り下げ、服装もカメラマン風であった。
     
作業員を指示している男に近付いた。
      
「雑誌のカメラマンです。マッホの絵の撮影に」
     
「まだ納入されていない」
  
年配の現場監督は迷惑そうな顔であった。
 
「研修所に展示されていないのですね?」
    
「ああ。3億の絵だから内装工事が終わらなければ納入できない、そう言っていた」
      
(3千万円では無いのか?)

「3億円のマッホの絵は、いつ頃、こちらに?」
   
「画商は工事が終わってから、そう言っていた」
   
3億円という言葉に何も反応しなかった。

缶コーヒー10本を差し入れた。

「大阪の湯浅という画商ですね?」
    
「おう」
   
現場監督は缶コーヒーを開け、イッキに飲み干した。
   
「1週間前になるか…、田ノ上会長と共に来たよ」
    
シャツの胸ポケットから、小さな手帳を取り出した。差入れの缶コーヒーが効いたのか、あるいは元々話し好きだったのか…。とにかく詳しく知ることができた。

 
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風景
南知多町:©愛知県
風景
知多市:©愛知県
風景
南知多町:©愛知県
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