「今のところ、殺害に結び付く人物はいません」
畠山警部補が、きっぱりと言った。
「和田かつ也は不倫や援助交際をネタに、ユスリを行なっていました」
「ただし、ユスるのは一回だけ。ユスリの金額も100万円以下です」
「相手を追い込まないユスリ、というわけか?」
岩田が確認した。
何度もユスったり、金額が多ければ、警察に駆け込まれる。あるいは反撃される。
「はい。通帳の最終残高は2千5百万円。和田かつ也の死後、銀行の口座から金は引き出されていません」
畠山警部補が即座に応えた。
「金目的で無かった?」
「わかりません。絵を持ち去ったということであれば、金銭目的の可能性も考えられます」
「犯人は、絵の価値を知っていた?」
「はい。所持していたことも、知っていた人物でしょう」
「湯浅という画商が、この部屋に入ったようだ」
岩田が話を変えた。
「さきほど、マンションの管理人から話を聞きました」
畠山警部補は、既に知っていた。
「どうしても部屋を見せてくれと。仕方なく開けたそうです。ただ、部屋の中のものには触れていない、管理人はそう言っています」
「柿元順子も、ここに?」
「彼女は、こちらがお願いしたのです。部屋の中を確認してもらうため。もっとも、柿元順子がこの部屋に入ったのは一度だけ」
「彼女も変ったところがあるかどうか、わからないとのことでした」
畠山警部補がそう応えた。
「昨晩、北新地のクラブで、柿元順子に会ってきたよ」
岩田がさりげなく告白した。
「そうですか」
畠山警部補は驚いたということも無く。
後輩刑事には、岩田先輩がどう動くか、わかっていたようであった。
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