太閤街道殺人事件
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10月25日午前7時、鼓ヶ滝公園。
有馬温泉の一番奥、六甲山への登山口にあたる場所である。
   
公園には多数の警官が集まっていた。
     
パトカーがまた一台、到着した。
ドアが開き、中年の「いかにも」刑事が現れた。
    
「伊吹警部!」
若い刑事が中年の刑事のもとに走ってきた。
     
「胸をひと突き。即死だったようです。凶器は鋭利な刃物」
   
「朝、散歩に来た近くの住民が、倒れている男を発見。地面には多量の血が」
現場へ向かって歩きながら、若い刑事が簡潔に説明した。
      
公園は『立入禁止 兵庫県警』のテープで囲まれていた。
  
「殺害されていたのは30代半ばの男性」
   
「殺害時刻は昨夜の19時から21時の間」
     
「殺害場所もここで間違いないようです」
若い刑事が続けた。

雑木林の中に、男の死体が横たわっていた。
   
細身だが筋肉質。身長は170センチ前後。
服装は黒のシャツに、黒のジャケット、黒のパンツ。

死体の回りには刑事や鑑識、合わせて約15名が、黙々と自分の仕事を続けていた。
時折、カメラのフラッシュがたかれた。
       
「身元は?」
伊吹警部が若い刑事に尋ねた。
 
「まもなく確認が取れると思います」
そう答えたあと、若い刑事が経緯を説明した。

「身元を示すものは何も無く…。ただ、近くに有馬グリーンガーデンホテルのマッチが落ちていました」
     
有馬グリーンガーデンホテルは、中心街から少し離れた場所に建つ大型ホテルである。

「問い合わせたところ、特徴がツアー客の加藤和馬という男に」
     
「加藤和馬は昨日、ホテルに到着したあと、すぐに出掛けたようです」
   
「そして、朝になっても戻ってこなかった。まもなくツアー添乗員がこちらに」
  
「目撃情報は?」
伊吹警部の質問が続いた。

「今のところ…。悲鳴や叫び声を聞いたという情報もありません」
    
「警部!」
中年の刑事が早足で、伊吹警部のもとに近づいた。そのうしろには、スーツ姿の若い男性と女性が付いてきている。

「こちら、有馬グリーンガーデンホテルでフロントを担当している渡辺さんです」
中年の刑事が右手を横に出し、スーツ姿の若い男性を紹介した。
   
それに合わせ、若い男性は深くお辞儀をした。
いかにもホテル業に従事する男性であった。
       
「ツアー添乗員の小林優香(ゆか)さんです」
中年の刑事は、次に若い女性を紹介した。
    
小林優香はストレートの黒髪が印象的で、20代半ばに見えた。
     
「間違いありません」
ツアー客の死体を見た小林優香が、小さな声であったがはっきりと応えた。
  
直後、彼女の身体が揺れた。
側にいた刑事が気付き、支えた。

「ホテルに戻って、話を伺いましょう」
伊吹警部が2人の関係者に告げた。
   
「あとを頼む」
後ろを振り返り、若い刑事に告げた。
   
若い刑事が力強くうなずいた。
伊吹警部は部下3名を連れて、ホテルへ向かった。

 
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