京都
「あなたは一体?」
加美室長が岩田を見詰め、そう尋ねた。
「昔、刑事をしていまして、田々和を事情聴取したことがあります。腐れ縁というんでしょうか、気になりまして。あれほど用心深い男が…」
「立石君は営業のエースだったようですね?」
話を変えた。
「ええ。私が秘書室に呼びました。選挙のため社員を使うのは…。うちの会社にそんな余力もありません」
「でも、秘書室はパニック状態。一人だけを選挙対策に秘書室へ呼びました。彼を選んだのは私です。責任も私にあります」
東山花灯路(京都)
「大学卒業後、機械を専門とする商社に入社しました。でも、すぐに倒産しました。商社で上司だったのが木下藤吉郎です。会社を立ち上げるので手伝えと言われ…」
「倒産した会社の営業先は大手の商社に引き継がれ、ゼロからのスタートでした」
「会社は大きくなった。しかし、未だ大阪の中堅の機械商社に過ぎません。正直、出馬したいという真意がわからない…」
加美室長が何かを思い出したように呟いた。
「不景気でどうしようもない、大阪の状況を見るに見兼ねて。その上、府も市も多額の借金を抱え、倒産寸前…」
岩田も呟いた。
「そうですね。大阪を立て直すには経営センスが一番必要。民間並の経費削減をしなければ…」
加美室長は新大阪駅で降りた。人込みに消えて行く彼を見送った。