太閤街道殺人事件
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「うん。用心深い和田かつ也は、立石浩一が間に合わない可能性もあると考えた」
岩田が、畠山警部補の推理に同意した。

「迎えがくる前に、見付かってしまうということですね」
畠山警備補が解説した。
   
「取り引き時間に、和田かつ也が現れなかったら、その筋の連中は捜索を始めます」

「入口を押さえていたから、有馬温泉の外には出ていない。どこかに隠れているはず。和田かつ也を捜し出せ、そうなります」
      
「そこで、和田かつ也は柿元順子に電話。車で迎えに来てくれと頼んだ。車のトランクに隠れて脱出するつもりだった」

「しかし、柿元順子は体調が悪く、寝込んでいた。そこで、和田かつ也はカレンを呼び出した」
      
「うん。弱みを握られていたカレンは、車で有馬温泉へ向かった」
畠山警部補に代わり、岩田が説明を始めた。
    
「ところが、有馬温泉の駐車場で木下一樹と鉢会わせ」
     
「木下一樹は、ホテルを飛び出した和田かつ也を見失い、有馬の街中を探し回っていた。そこに自分をハメたカレンがいた」

「今度は、カレンが逃げ出すことになった」

「カレンと遭遇したのは、午後7時過ぎ。木下一樹はそう証言している」
      
「そして、午後7時半前、立石浩一が有馬温泉に到着。和田かつ也を殺害…」
畠山警部補の推理であった。

「うん。その筋の連中なら、あんな殺害はしない。身柄を確保したあと、車で人気のない山中へ連れ込み、そこで殺害」

「山奥に埋めるか、海に沈める。和田かつ也は、永遠に行方不明のまま」
岩田の言葉が、深夜の街にさびしく響いた。

「和田かつ也を殺害したあと、立石浩一はネタや携帯、財布、マンションのカギを奪った。そして、大阪駅前のホテルへ向かった」
 
「殺害に10分、有馬温泉から大阪まで、車で50分」
畠山警部補が続けた。

夜の有馬温泉から大阪へは、帰宅ラッシュの流れと逆方向。渋滞にあう確率は低い。

「午後8時30分までに、大阪に着けます」
大阪駅前のホテルに、立石浩一が現われたのは午後8時30分頃。

「ホテルでパーティの準備を確認。終わると、新大阪の和田かつ也のマンションへ向かった」
    
「そして、証拠になりそうなものと、絵を持ち去った」
畠山警部補の推理が、一区切り付いた。
      
「あ、加美室長と同じ新幹線」
畠山警部補も気付いた。

立石浩一が乗車したのは、名古屋午後5時58分発の新幹線。

「うん。加美室長の応対から、立石が乗っていたと確信したよ」
     
加美室長は『秘書室に引き抜いたのは私ですから、その責任も私にあります』と岩田に言った。

「あの日、名古屋駅の新幹線ホームで立石浩一を見た。そのときはわからなかった。なぜ、この新幹線に?」

「それに、あのときは加美室長も必死。立石浩一のことなど考えている暇も無かった。しかし、あとで気付いた」

「立石浩一と会って、話をしようと思う」
岩田が、きっぱりと告げた。

「加美室長があのように応えたのは、自首を勧めてくれ、そういうことだと思う」

「岩田さん、今週はもう、木下藤吉郎のパーティがありません。立石浩一は昼前、会社に出勤してくると思います」
畠山警部補がしばらく考えたあと、そう教えた。

「これから、兵庫県警の伊吹警部と話をしてきます。岩田さん、ありがとうございます」
畠山警部補が、なんば駅へ向かって走り出した。

時刻は、午前3時。
電車はまだ動いていない。タクシーを拾うため、であった。

 
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