太閤街道殺人事件
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「失礼します」
会議室に、白い手袋を付けた部下の刑事2人が入ってきた。
殺害されたカメラマンの部屋を捜索していた刑事である。
       
「このカメラバッグだけが残されていました」
刑事の一人が、アルミ製のカメラバッグを机の上に置いた。

「持ち物は、これだけでしたか?」
斜め前に置かれたカメラバッグをチラッと見たあと、伊吹警部が質問した。
     
「はい」
小林優香がきっぱりと応えた。
   
「他に旅行バッグとかは?」
再度、伊吹警部が確認した。
    
「持っていませんでした」
     
「国内ツアーでは何も持たずに参加される方も。必要な物は旅先で用意できますから」
小林優香の回答に、伊吹警部が肯いた。

(言われてみれば、そのとおりだ)
洗面用具など持参しなくても、ホテルに備わっている。そのうえ、24時間営業のコンビニが全国至る所にある。
 
必要な物は、いつでもコンビニで購入できる。ここ有馬温泉でも、一番便利な場所にコンビニが存在する。
 
「カバンの中に、デジタルカメラがありました。しかし一枚も」
バッグを運んできた刑事が、伊吹警部に説明を始めた。

「写されていなかった?」
伊吹警部が尋ねた。
      
「はい。それからカメラバッグの中にメモがありました」
紙切れが入ったビニール袋を、伊吹警部の前に置いた。
      
紙切れは10×15センチ程度の白い紙。
『710ー3=1兆』という計算式がペンで書かれていた。

「何か、わかりますか?」
伊吹警部が小林優香に尋ねた。
  
「いいえ」
その後、旅行中の状況などを質問し、小林優香の聞き取りを終えた。
     
伊吹警部の予測どおり、30分後、旅行会社の人間が有馬温泉のホテルに到着した。

1人はツアーの担当者、事業部の鈴木市郎。
30代のヒラ社員で、アニメに出てくる「森のクマさん」といった容姿である。

もう1人は総務部係長の山中進。
40代、細身で銀ぶちメガネを掛けていた。

(何かある)
2人から事情を聞いた伊吹警部のカンである。

受け答えは丁寧だが、肝心なことについて、うまくかわされた。添乗員から聞いた以上のことは、何も得ることが無かった。
       
その後、伊吹警部はツアーバスの運転手からも聞き取りを行なった。
ツアーバスの運転手は本当に何も知らないようであった。

聞き取りを終えたとき、県警本部から連絡が入った。
被害者の住所や電話番号はデタラメ。
        
加藤和馬という名前に該当する人物もいない。つまり、偽名であった。

しかし翌日、大阪府警の協力により身元が割れた。

鼓ヶ滝公園で殺害されていたのは、大阪市東淀川区在住の和田かつ也、36歳。
元暴力団であった。

 
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