翌朝、岩田は京都から、阪急電車で大阪梅田へ向かった。
梅田駅の改札口を出たあと、地下街を東へ歩き、地下街の終点で地上にでた。
駅から10分、目的地に到着した。
レッド・ウイドウは、昔流に言うと、ディスコ。
5階建てビルの地下にあった。
ビルの横に、店へ通じる階段があり、その階段の入口で男が掃き掃除をしていた。
服装から、店の従業員のようであった。
「聞きたいことがある?」
元刑事の迫力ある声で尋ねた。
「勘弁してくださいよ。こっちも、あがったりなんですから」
(何かある!)
「常連の木下という高校生だ。彼について聞きたい」
岩田が畳み掛けた。
「本当に勘弁してくださいよ。前に話したのが、すべて、です。これ以上、何もないですから」
店の従業員は、岩田を刑事と勘違いしていた。
無理もない。
岩田が大阪府警を辞めて、2年が経ったが、容姿、動作、話し方、刑事しか見えない。
「それに逮捕されたあと、ここには…」
(逮捕!)
「殺人事件を調べている。話を聞きたい」
岩田が間髪を入れず、尋ねた。
もちろん、これは出まかせ。岩田は絵を探しているだけである。
「殺人事件ですか?」
店の男の顏が青ざめた。
店の男とともに階段を下り、岩田が店内へ入った。
店の中は広々として、おしゃれな装飾で、テーブルの上には逆さにしたイスが乗せられていた。
清掃中にみえたが、他に人はいなかった。
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