太閤街道殺人事件
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「名古屋の会社と言われることに、どうということはありません」
   
「むしろ、光栄なことだと思っています」
      
「大阪に未来はありません。そろそろ、東京に進出する時期です。社長もわかっているはず」

「たまらない…」
立石浩一がそうつぶやいた。

「たまりませんか?」
      
「営業のナンバーワンが選挙対策の雑用ですから」
不満が、立石浩一の顔に出た。

「選挙の雑用ですか?」
      
「ええ。先乗りスコアラーをしています」
先乗りスコアラーは、プロ野球などで、次に対戦するチームの状況を調査する人である。

「先乗りスコアラー?」
「社長の行くところに先回りして、準備する役目です」
 
「入社以来、ずっと営業部にいました。大卒の連中に負けたくなくて、機械を売って売りまくって」

キャバクラで女の子としゃべらないのは変であったが、立石浩一とは話が尽きなかった。

内容は、仕事や会社の愚痴、大阪の経済…。
     
ホテルで会った人物とは別人であった。
もちろん、酒が入っていたこともある。
      
結局、2時間以上、キャバクラにいた。
      
どことなく、さびしそうな後ろ姿であった。
人混みの中に消えていく、立石浩一を見送った。
      
(しまった。車だ!)
自分の車を、大阪の駐車場に置いたまま。
     
お酒を飲んでいる。
今から大阪に戻っても、車を運転できない。

(京都に泊ろう)
      
そう考えた岩田は、三条京阪駅近くのネットカフェに入った。

ネット調査を始めると、木下一樹が通う高校の、学校裏サイトに行き着いた。
       
学校裏サイトは、その学校の話題のみを扱う、非公式の匿名掲示板。

一樹は木下藤吉郎の一人息子。現在、阪奈大学付属高校の2年生である。

『まじめになった』
『最近、クラブに行っていないみたいだ。前は、週に何度も行っていた』
『父親が、知事選に出馬するため?』
      
しばらく、学校裏サイトを読み続けた。
結果、クラブは梅田の『レッド・ウイドウ』と判った。

東海近畿電力の田ノ上会長についての告発文も、掲示板に出ていた。
    
『会社を私物化して、美術品を多量に購入している』と。

 
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京都・鴨川
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