太閤街道殺人事件
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「阿倍野です」
そう応えた岩田の声も、会場に流れた。
      
「最寄り駅は天王寺駅ですね?」
木下藤吉郎の質問が続いた。

岩田がうなずいた。
本当は、もう一駅、南にある昭和町駅が正解であるが、空気を読んだ。

「岩田さん。御自宅から天王寺駅まで、どれくらい掛かります?」

「10分弱です」
10分弱は、自転車を使用した場合である。徒歩だと15分掛かる。

「岩田さん。天王寺駅から大阪駅までは?」

「JRの環状線で、16分・200円」
岩田が即答した。
       
16分は快速を利用したときで、普通であれば20分以上掛かる。
   
天王寺駅から大阪駅(梅田駅)までは、地下鉄・御堂筋線を使うルートもある。
こちらは、14分・280円である。

「岩田さん。ありがとうございます」
ニッコリ笑い、木下藤吉郎が演壇に戻った。
隣の山口圭子が、笑いをこらえている。
  
(だから、一番前の席は…。圭子ちゃんにハメられたか)

「通勤時間の一般的な限界は、片道90分です。会社まで90分以内であれば、通勤できるということです」

「今、ここにいる岩田さんが、名古屋の会社に就職した、としましょう」

「岩田さんは、自宅から天王寺駅まで10分。天王寺駅から大阪駅まで、環状線で16分」
      
「つまり、岩田さんは、自宅から大阪駅まで30分近く掛かります」

木下藤吉郎が水差しからコップに水を入れ、そして、イッキに飲んだ。

「同じように、名古屋駅から会社までも、30分掛かります」
    
水で喉をうるおしたあと、再び、気迫のこもった声で話し始めた。

「最初に申した通り、通勤時間の限界は90分」
      
「90分から、自宅から大阪駅までの30分と、名古屋駅から会社までの30分を引くと、残りは30分!」

「この30分で、大阪駅から名古屋駅まで行くことが出来れば、岩田さんは名古屋の会社まで通勤できます」

会場は木下藤吉郎の熱弁に圧到され、静まり返っていた。

 
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大阪・阿倍野
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