京都・インクライン
取り残された片山社長の側に付いた。
「中館顧問は?」
「廊下でお見かけしたものですから」
そう話し掛けた。
「気分がすぐれないようです。部屋で休んでいます。うちの中館をご存知ですか?」
少し驚いた表情で問い返した。
「ええ少し。先程の線路改修について、どう思われますか?」
「さあ、私にはまったく」
タヌキと呼ばれている片山社長らしくトボけた。
「建設会社の社長には失礼な話ですね。ごく当たり前の話ですから。やり手の経営者なら、すでに土地の買収を始めているでしょう」
皮肉を込めての言葉であった。
「ここに私以上のタヌキがいるようだ」
今度は真顔で片山社長が返した。そのとき、木下藤吉郎が壇上に立ち、挨拶を始めた。
パーティは午後9時過ぎ、閉会した。最後は木下藤吉郎を応援していこうという「お決まりのシメ」であった。
三条坂圭子と別れ、ロビーへ向かった。そして、ロビーのソファに座わり、休憩を取った。
「どうでした?」
しばらくすると、畠山警部補が現われた。
「中館顧問は出席していなかった」
「片山社長とは話ができた。タヌキにタヌキだ、と言われたよ」
畠山警部補が苦笑した。
「印象は灰色のままだ」
春のイベント「東山花灯路」
(ちょうどいい)
フロントに顔見知りの男が現れた。2日前、このホテルに着たとき、話をしたフロント係であった。
近付くと、挨拶代わりに左手を少し挙げた。
「今日も取材ですか?」
フロント係は微笑みながら小さな声で応じた。彼も岩田のことを覚えていた。
「植芝会長の取材をしたいのだが、まだこのホテルに?」
小さな声で尋ねた。
「15階のバーをよく利用されていますが」
小さな声で教えてくれた。