「和田と立石がつながっていた」
岩田がベンチに腰掛け、十日夜の月を見詰めながら、独り言ように呟いた。
「殺害された和田かつ也と、七洋電子機械工業の立石浩一が?」
すかさず、畠山警部補が確認した。
「うん。1つは、和田かつ也が木下陣営の内部情報を知り過ぎている」
「木下藤吉郎の息子がハメられたこと。誰かが息子の情報を伝えた」
「2つ目は、和田かつ也が太閤街道ツアーに参加したこと」
「岐阜のホテルで木下の後援会をユスった。ユスられた植芝会長は現金を用意するため、少し時間が欲しいと応じた」
「そして、それまでの間、うちのツアーに、と推めた」
「時間稼ぎですね。それと和田かつ也を拘束するため」
畠山警部補が確認。
「うん。その間に男が何者か調べた」
「担当したのは、元大阪府警の中館顧問。大阪府警の信用できる後輩に問い合わせた」
「つまり、太閤街道ツアーへの参加は、木下陣営が仕掛けた罠。和田かつ也も気付いていたはず」
「にもかかわらず、相手の罠に掛かった」
岩田が説明を始めた。
「木下陣営に協力者がいたと考えたら、和田かつ也の大胆な行動が理解できる。そういうことですね?」
畠山警部補の確認の質問であった。
岩田がうなずいた。
「3つ目は、絵」
「誰かが持ち去った。つまり、持ち去った人間は絵の価値を知っていたということ」
「和田かつ也から、絵のことを聞いた人物がいる」
岩田が説明を続けた。
「これも、協力者がいたということの裏付けですね?」
畠山警部補の確認が続いた。
岩田が、ゆっくりとうなずいた。
「和田かつ也を殺害したのは、立石浩一になりますね?」
畠山警部補の推理であった。
「片山社長がその筋の人間を動かした。しかし、和田かつ也は危なくなると、一番先に逃げ出すタイプの男」
「殺害するのは難しい」
畠山警部補がそう続けた。
「うん。拳銃のような飛び道具を使えば、別だが、刃物で刺すとなると近付く必要がある」
「和田かつ也はユスリという仕事の最中。油断していたとは考えられない」
「殺害が可能なのは気の許した人物。和田かつ也の協力者であれば、近付くのも」
岩田が、畠山警部補の推理に同意した。
「しかし、物証がありません。状況証拠ばかりで」
畠山警部補が呟いた。
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