「初めから整理しよう」
そう、岩田が提案した。
「始まりは、6年前の事件だ。当時、府の局長だった井戸口が刺された事件」
「はい。あの事件は実行犯を逮捕しましたが、依頼した人物を割り出すことが出来なかった」
畠山警部補が応じた。
「そこで、井戸口は自分で依頼者を割り出そうとした」
「はい。依頼者を割り出さないと、再び、井戸口は刺される可能性があります」
「井戸口は、あの事件で犯人の身代わりとして出頭してきた和田かつ也なら、真相を知っていると考えた」
「和田かつ也と接触するには、和田の女でホステスをしている柿元順子を利用すればいい」
「店に行けば、柿元順子と会える。馴染み客になればいい」
畠山警部補の推理であった。
「だが、和田かつ也は6年前の事件の真相を知らなかった。何も知らず、身代りで出頭した」
6年前、岩田が和田かつ也を取り調べた。
「しかし、この男は使える。井戸口はそう思った」
「ユスリのネタを捜す、調査能力ですね」
畠山警部補が補足説明をした。
「次に、木下藤吉郎の大阪府知事選への出馬だ」
「大阪府の黒幕である井戸口は、木下藤吉郎について調べた」
「結果、あの男はまずい。彼のやり方で府庁を改革されると、旨味が無くなる」
岩田の説明が続いた。
「タレントや官僚上がりであれば取り込めるが、木下藤吉郎は無理ですね」
畠山警部補が応じた。
「井戸口は、木下藤吉郎が知事になることを阻止したいと考えた。そこで、和田かつ也に木下藤吉郎のスキャンダルを見つけてこいと依頼した」
「ユスリのプロ・和田かつ也には、天職のような依頼ですね」
畠山警部補が、わかりやすく解説した。
「うん。和田かつ也はネタを探したが、愛人や不倫は出てこなかった」
「そこで、和田かつ也は秘書室の立石浩一に近づいた」
「立石浩一は先乗りスコアラー。講演会やパーティ会場に先回りして、準備する役目。木下藤吉郎の予定を見れば、行き先がわかる」
講演やパーティのスケジュールがホームページに記載されている。
「そのうえ、立石浩一は一人で動いている。接触するのは簡単だ」
事実、岩田も先乗りスコアラーとして京都のホテルにいた立石浩一と、簡単に接触することができた。
「立石浩一と接触した和田かつ也は、協力を求めた」
「立石は、木下藤吉郎の府知事選への出馬には反対だった。出馬は会社のためにならない」
「営業にいたとき、ずっと成績はトップ。会社は俺が支えているんだ。立石はそう自負していたから、なおさら」
「立石浩一が協力することになった」
岩田の推理が続いた。
「そして、木下藤吉郎の一人息子・木下一樹ですね?」
畠山警部補の確認の質問であった。
「うん。和田かつ也も気付いていたのかもしれないが、立石浩一の情報で確信した」
「一樹が木下藤吉郎のウィークポイント。名門私立高校二年の木下一樹はクラブに入り浸り」
そう、岩田が応えた。
「でも、それだけだと大きなスキャンダルにはならない」
「単なるバカ息子で済む。そこで大麻ですね。担当したのはカレン」
畠山警部補の確認であった。
「頃合いを見て、警察に通報。木下一樹は現行犯逮捕された」
「和田かつ也は、その状況を隠し撮り。そして、写真を井戸口に渡した」
「報酬は3千万円の絵。画商の湯浅に渡せば、現金に換わる予定だった」
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