「電話をもらった植芝会長は気付いた。始末するつもりだと。そして、止めなくては、と考えた」
「そこで、加美室長ですね?」
畠山警部補が確認した。
「うん。名古屋でのパーティは植芝会長が主役。抜け出すわけにはいかなかった。木下藤吉郎には心配を掛けたくない。そうなると、事情を話せる人物は加美室長だけだ」
「片山社長の説得を依頼した。そして、加美室長はホテルを飛び出し、有馬温泉へ向かった」
「新大阪で車を受け取ったのが午後7時前。有馬温泉到着は午後8時前後。取り引き時間はこの辺りになりますね」
「ツアーに参加していた田々和の方だが、取り引きの連絡が入った」
「そこで取り引きが本当なのか、協力者の立石に問い合わせた。立石はそのとき初めて、田々和がユスっていることを知った」
「そう思います。ユスる前だと止められる可能性があります。ユスったあとであれば、今までの経緯から協力すると踏んだのでしょう」
畠山警部補が応じた。
「ユスるのは想定外。共犯として逮捕される可能性もある」
「はい。立石も取り引きを止めなくては、と考えた。そこで取り引きはワナだ。その筋の連中が動いていると伝えた」
「片山社長がその筋の人間に依頼していますが、知らされていないでしょう」
つまり、立石自身はウソを言ったつもりであった。
「ワナだと聞いた田々和はホテルを飛び出した。飛び出したのは午後5時25分」
ホテルのフロントが証言している。
「一樹もそう言っていた。逃げだしたような雰囲気だったと」
一樹は自分でカタをつけるため、田々和を追跡していた。
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