太閤街道殺人事件
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11月7日、岩田は愛車のオンボロ・ワゴンで、阿倍野の自宅を出発した。

西名阪自動車道、名阪国道、伊勢自動車道と走り、久居インターチェンジで高速道路を降りた。
そして、一般道を南下した。

助手席には女性がいた。
Qnewニュースの記者・山口圭子である。

昨晩、事件の真相を聞かせて欲しいと、彼女から電話があった。
岩田は2、3日後なら、と答えたが…。

今朝、山口圭子が岩田の自宅にやってきた。
木下藤吉郎が知事選を取り辞めたため、担当記者はヒマとなった。
  
結局、一緒に行くことになり、車内で山口圭子記者から質問攻めにあった。
  
「さすが、ツアー添乗員ですね」
ツアー添乗員の小林優香は、『カラス飛ぶ 三ツ雲の空 ああうれし』の意味を即座に解いた。

「カラスは香良洲町。三ツ雲は三雲町。うれしは嬉野町では…」
有馬温泉で再会したとき、ツアー添乗員の小林優香がそう教えてくれた。

「香良洲町、三雲町、嬉野町は、三重県の中部に存在していました」
小林優香の解説。

「存在していました?」
岩田が小林優香に確認した。
      
「はい。昔、存在していた町です。合併したため、現在はもう存在していません」

「香良洲町は津市になりました。三雲町と嬉野町は、現在、松阪市になっています」
     
平成の大合併で、市町村としての町は消えた。ただ、地名としては残っている。

「なるほど。でも、よく…」

「名古屋の旅行会社にとって、伊勢志摩へのバスツアーは稼ぎ頭なんです」
 
「お伊勢参りツアーを数え切れない程、担当しました。だから、この辺りの地理は」
そう、ツアー添乗員の小林優香が応えた。
      
伊勢志摩への道中に、津市や松阪市が存在する。
      
(間違いない)
飛ぶは、離れているということ。『カラス飛ぶ』で、香良洲から離れている。

空は、空っぽ。
無いということ。『三ツ雲の空』は、三雲では無い。

『ああうれし』は、ああ嬉野。
      
『カラス飛ぶ 三ツ雲の空 ああうれし』は、香良洲から離れている、三雲では無い、ああ嬉野、と解読できる。

旧香良洲町から一番離れている、旧三雲町と旧嬉野町の境界。
三雲では無い、嬉野側の地点。
      
地図では、松阪市嬉野黒野町。
松坂牛の牧場のほか、寺と神社が建っている静かな田園地区である。
      
(場所を表わしているとしたら、何?)
     
(絵の隠し場所!)
岩田が答えを見つけ出した。

絵は、立石浩一が和田かつ也の部屋から持ち去った可能性が高い。だが、立石浩一の部屋には絵は無かった。

(立石浩一が絵を隠した)

この場所には、立石浩一の知り合いはいない。
そうなると、公園や寺、神社など公共的な場所に、絵を隠した可能性が高い。

 
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風景
伊勢市の夫婦岩:©三重フォトギャラリー
風景
英虞湾(あごわん):©三重フォトギャラリー
風景
大王埼灯台::©三重フォトギャラリー
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