太閤街道殺人事件
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伊勢中川駅から、南へ10分。
    
田畑が広がっている平野の中に、小さな鎮守の森があり、森の中に小さな神社が祀られていた。

(ここしかない。絵を隠すとすれば)
人気がなく、誰にも気付かれずに絵を隠せる。
      
神社の裏に回り、岩田は小さな社の床下を覗いた。

「見つかった?」
   
「ちょっと待ってくれ」
苦しげに岩田が応えた。岩田の顏は地面すれすれであった。

「あった!」
梱包されたものが隠されていた。

農作業をしていた、地元の老婦人に頼み込み、社の中へ入れてもらった。

床下から取り出し、梱包をはがした。
ジュラルミンのケースが現れた。
   
ケースを開けると、フランスの田園風景の絵があった。

捜していた絵を、車の貨物室に丁重に仕舞い、岩田が運転席に着いた。

車を動かすとともに、岩田がカーラジオのスイッチを入れた。

ニュースが流れた。

『今日、東海近畿電力の田ノ上会長が辞任しました』
     
『東海近畿電力・田ノ上会長は…。失礼。辞任しましたので、元会長ですね』
   
『元会長は長年に渡り、美術品を会社の備品として購入していました』
     
『しかし、多くは偽物であったり、市場価格より格段に高い金額であったようです』
   
『内部告発で発覚し、社内調査の結果、美術品の不明朗な購入による損害額は、30億円を越えると見られています』

『責任を取り、先程、東海近畿電力の会長を辞任しました。東海近畿電力は元会長を検察に告発する予定です』

『田中さん。東海近畿電力の田ノ上会長と言えば、社内では天皇と言われていた人物ですね?』
      
『はい。名古屋財界でもドンと言われていた人物です』

『これから、いろいろと大変ですね』
     
『はい、そのとおりだと思います』

『それから、中京総合ツーリストの植芝隆之会長も辞任することを、今日発表しました。こちらは、後進に道をゆずりたい、との意向です』

『植芝会長と言えば、名古屋財界の世話人と呼ばれている方ですね?』
   
『はい。植芝会長は、財界の要職からも身を引く模様です』

『ただ、先月発足しました名古屋・大阪経済圏をつくる会の活動は、続けていくそうです』
      
『今後、名古屋財界も大変ですね?』
   
『ええ。財界幹部も頭を抱えています。ニュースは以上です』

『ニュースは田中幸生アナウンサーでした。続いて、山本麻那アナウンサーの天気予報です。では、麻那さん、お願いします』

『はい。では天気予報をお伝えします。東海地方は今夜から下り坂に入り…』
岩田が、カーラジオのスイッチを切った。

(とりあえず、報酬は貰わなくては)
絵が3億円で売却できるからの高額の報酬。こうなった以上、怪しくなってきた。

(必ず、支払ってもらう!)

 
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風景
秋空
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松阪の御城番屋敷:©三重フォトギャラリー
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近鉄特急:©三重フォトギャラリー
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