太閤街道殺人事件
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「和田かつ也が?」
今度は岩田が尋ねた。

「3日前、死体となって発見されました」
兵庫県警の伊吹警部が淡々と応えた。

「殺人ですか?」
聞くまでもなかった。刑事二人がわざわざ、ここを訪ねている。
      
「鋭利な刃物で刺され、即死に近い状態でした」
伊吹警部がそう応えたあと、くわしい説明を始めた。
     
「場所は、有馬温泉の一番奥に位置する鼓ヶ滝公園です。殺害されたのは前日の19時から21時の間」

「殺害場所にホテルのマッチが落ちていました。ホテルに問い合わせたところ、特徴がツアー客の加藤和馬という男に」
      
「すぐに、ツアー添乗員に確認してもらいました。その日の夕刊には、殺害されたのは加藤和馬ということで記事になりました」

「その加藤和馬が、和田かつ也?」
岩田の問いに伊吹警部がうなずいた。そして、説明を続けた。

「参加していたのは太閤街道ツアー。ツアー名簿の住所や名前はデタラメでした。しかし翌日、大阪府警の協力により、和田かつ也、36歳とわかりました」
      
「携帯電話や財布などは無く、犯人が持ち去ったものと思われます。凶器も見つかっていません」
    
「目撃情報もまったく。叫び声や悲鳴を聞いた人もいません」
伊吹警部の説明が終わった。

「昔の組関係は殺害に関わっていないようです」
今度は、畠山警部補が説明を始めた。

「和田かつ也は組を追放されたあとも、ユスリを仕事にしていました。しかし、ヘタを打つことは無く、警察の世話になったことはありません」

「それゆえ、取り調べたことがあるのは、岩田さんだけです。そこで話を伺いにきたというわけです」
畠山警部補の説明が終わった。
      
「短刀直入に伺います。何か思い当たることはありませんか?」
再び、兵庫県警の伊吹警部が尋ねた。

岩田は、取り調べのときの和田かつ也を思い出そうとした。

顔が浮かんでこない。
チンピラという顔をしていたのは間違いない。しかし、具体的な顔の形が思い出せない。

カラスのような男、という印象が残っていた。

ずる賢く、「ガァ、ガァ」とうるさく吠えるくせに、やばくなると一番先に逃げ出す、用心深く、気の小さいタイプだった。
 
殺害されたことが不思議に思えてきた。
      
「行きずりだとしても、顔見知りだとしても、簡単に殺される男では」
岩田の率直な感想であった。
      
「余程、油断していたのか、気の許した相手だった」
気の許した相手と言った後、岩田が思い出した。

 
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