「現場周辺を捜索していますが、携帯電話などは見つかっていません。持ち去られたのであれば、顔見知りによる犯行の可能性が高くなります」
携帯電話は「個人情報の塊」である。顔見知りによる犯行であれば、犯人へつながるものが残る。当然、証拠を消すため持ち去り、処分する。
「持っていたのは匿名携帯のようです」
携帯電話は購入時、身分証が必要である。法律で本人確認が義務付けられている。しかし、所有者のわからない匿名携帯が現在も出回っている。
「ツアーに参加するような人間とは思えないのですが?」
「団体行動のできない男だと、私も思います。女と一緒であれば、可能性はあるかもしれませんが」
伊吹警部がうなずいた。
「仕事だったということでしょう。偽名を使っているのも、そのため」
仕事はユスリである。
「我々もその可能性が高いと考えています。ツアーの参加者、旅行会社、宿泊したホテルについて、捜査を進めています」
「ツアーはどういう?」
今度は岩田が尋ねた。
「太閤街道ツアーです。豊臣秀吉ゆかりの地を訪れるバスツアー。名古屋をスタートして、岐阜、滋賀、京都、大阪、最後は姫路城になります」
豊臣秀吉は今から4百年以上前の武将。尾張の大名・織田信長に仕え、彼の元で出世した。信長の死後、その意志を継ぎ、天下統一を果たした。今も人気が高いのは、一代で「天下人」というトップに成り上がったことが大きい。
「初日が岐阜の長良川温泉、2日目が滋賀の雄琴温泉、3日目は有馬温泉に宿泊します。いずれも有名な高級ホテルです」
「有馬温泉に到着後、殺害された?」
「はい。当日は午後5時前、ホテルに到着。田々和は午後5時25分、フロントに部屋の鍵を預けて出かけています。そして、有馬温泉の一番奥にある公園で殺害された」
「気になる点が3つあります」
伊吹警部が続けた。
「1つは、部屋に残されていたカメラ。1枚も写されていないのです」
「ツアー添乗員も撮影している場面を見なかった。フリーカメラマンと聞いていたから、不思議に思ったと言っています」
カメラはユスリのネタを撮影する大事な道具である。
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