(偶然にしては出き過ぎている)
殺害された和田かつ也の捜査のため、2時間前まで、刑事2人がここに居た。
今度は、和田かつ也が所持していた絵の捜索のため、画商が来ている。
「おはずかしい話なのですが」
画商が話を続けた。
「絵を買い取ることが決ったあと、私どもは販売先を探しまして、ある会社の会長と契約しました。そのため、早急に捜し出す必要が」
岩田は頭の中が混乱してきた。
湯呑み茶碗を取り、イッキに飲み干した。
「失礼ですが、探偵事務所のことは、誰からお聞きになられましたか?」
「知人に、政治家や官僚をなさったいる方が多数います。こういうことで、非常に困っているという話を申し上げたところ」
「大阪府警の幹部の方から、岩田という元刑事が探偵事務所を開いている。府警にいたときは辣腕刑事として有名だった。相談してみれば、と」
画商がよどみなく答えた。
「幹部の方の、お名前を教えていただけませんか?」
「それはちょっと。私どもと知り合いであることがわかると、ご迷惑が掛かります」
言葉使いは穏やかだが、画商ははっきりと断わった。
(誰だろう)
後輩の畠山警備補が浮かんだ。
今回の事件の捜査協力に当たっている。
(畠山警部補は府警の幹部か?)
画商の言い方を考えれば、もう少し階級が上の人間が妥当。
「手付金です」
画商がカバンから百万円の札束を2つ取り出し、机の上に置いた。
「絵が入りましたら、成功報酬として3百万円。もちろん、必要経費も支払います。いかがでしょう?」
申し分はない。依頼を引き受けた。
お金では無い。
ウソに聞こえるが、宿命を感じたからである。
誰かに仕組まれているのかもしれない。それはそれでいい。
6年前の事件は、取り調べに当たったのが岩田でなければ、和田かつ也が犯人で事件は終わっていた。
その和田かつ也が殺害された。そして、岩田のもとに、この話がきた。
(宿命だ)
岩田はそう思った。
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