「いや。聞きたいのは事件の方で無く、和田かつ也が所持していたマッホの絵です」
「画家の?」
柿元順子はキョトンとした顏で確認した。
北新地のホステスだけに、絵も詳しいようだ。
「はい。画商がその絵を買い取ることになっていました」
「ところが約束の期日になっても…。画商はマンションを訪ねたそうです。そこで殺害されたことを」
岩田が柿元順子を見つめた。
「私が持っていると?」
「御存知ありませんか?」
岩田が再度、尋ねた。
「知りませんわ。彼のマンションにも無かったと思います。警察には?」
テンポ良く、柿元順子が質問を返した。
「ええ。尋ねましたが、警察も」
岩田が首を左右に振った。
「絵の販売先が決まっていて、画商は入手できないと困るようです」
「それで、探偵さんを?」
「はい。絵の値段は3千万円です」
岩田の話に、エリカこと柿元順子は表情を変えなかった。
(彼女から真実を探るのは難解だ。だが、和田かつ也が亡くなった今、絵は内縁の妻・柿元順子のもの)
(隠す必要はない)
絵の代金3千万円は、彼女のものになる。
「最後に会ったのは、いつですか?」
岩田が話を変えた。
「亡くなる一週間前かしら…。刑事さんにも、そうお答えしましたわ」
「そうそう、普通のビニール袋に入った、お茶をお土産に持って」
「これじゃ、どこのお茶か、わからないわ。そう質問したら、山を越えたら三重県だが、間違いなく京都の宇治茶だと」
柿元順子の話が終ったとき、スタッフが彼女の元に。
そして、彼女の耳元でささやいた。
「探偵さん、失礼します」
そう言ったあと、エリカこと柿元順子が立ち上がった。
そして、テーブルを離れた。
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