「絵の捜索を依頼してきたのが、ナニワ湯浅画廊です」
感情を顔に出さず、岩田が淡々と続けた。
「ほお、湯浅くんが」
「和田かつ也という男が絵を持っていました。6年前の事件のとき、身代りで出頭してきた男です」
「先日、殺害された和田かつ也ですな。私と何か関係が?」
井戸口が淡々と質問を返した。
「北新地のブルーパピオンの柿元順子。いや、エリカさんだったかな。和田かつ也は彼女の男です」
岩田が穏やかに応えた。
「北新地には、よく行きます。立場上、断わることのできない付き合いがあります」
「顔を見れば、会ったことがあるホステスかどうか、わかるのですが…。名前だけだと」
「そうですか。よくいらしていると聞きまして。もしかしたら御存知かと」
井戸口は両手を広げ、体で「否定」を表した。
話はこれで終わった。
これ以上、質問しても、得るものがないと判断した。
弁当を食することに集中した。
食べたというより、胃の中に流し込んだと言ったほうが正しい。そのため、どういう味であったか…。
数千円の「料亭弁当」も、320円の「のり弁当」も、岩田にとっては同じであった。これこそ、猫に小判である。
(井戸口と和田かつ也は、つながっている)
当日の夕刊に、殺害された人物は加藤和馬と報道された。翌日以降、この事件の記事は無い。
加藤和馬が、和田かつ也であると報道されていない。それなのに、井戸口は和田かつ也と知っていた。
柿元順子から聞いた可能性もあるが、それも井戸口と和田かつ也がつながっている証である。
それにしても、6年前とは180度違う対応。
6年前の井戸口は、「私は被害者だ」と喚くばかりであった。
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上町台地の大阪城 |
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