岩田は井戸口の財団を出たあと、北へ向かった。
上町台地の終点を告げる坂を下ると、京阪電鉄・天満橋駅に行き着く。
駅の北側には、大川が流れている。
大川を渡ったあと、西へ歩いた。
行先は、天満のナニワ湯浅画廊であった。
依頼者の湯浅の店は、天満でも西天満。
立地条件のいい、わかりやすい場所にあった。
全面が大理石に被われた6階建ての新しいビル。黒い縁取りの大きな窓が、建物のポイントとなっていた。
(さすが、大阪でも有数の画商だな)
大きな窓から、内部の様子が伺えた。
1階は展示スペースで、飾られている絵は有名画家のものばかりであった。
調査を開始した。
この辺りは画廊街。多数の店が点在している。
ナニワ湯浅画廊から近い、小さな画廊に入った。
「いい絵ですな」
言った岩田自身、恥ずかしくなるお世辞であった。
女主人は微笑んだ。
「大阪の景気も良くなったのかな?」
独り言のような質問。
「どうなんでしょう…」
女主人は答えをぼかした。
「湯浅画廊で絵を売りませんかと。私の持っている絵なんて、大したものでは無いのですが、いい値段でした」
絵を見つめながら、さりげなく。
いつもの服装であれば、高価な絵を持っているようには見えない。昨晩、北新地に出かけたときと同じ、一張羅であった。
女主人は、そうですか、といった顏をした。
「湯浅画廊は、いいクライアントをお持ちのようですな」
「名古屋の電力会社の会長さん、でしょう。業界では有名な方ですから」
女主人が食いついた。
「ほお」
相槌のような返事をした。
「知多半島に研修所が出来るとか…」
女主人が小さな声で呟いた。
その後、しばらく世間話を続けた。
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京阪・天満橋駅 |
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大川 |
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大川の七夕イベント「天の川伝説」 |
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