太閤街道殺人事件
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10月30日午前5時、岩田は愛車のオンボロ・ワゴンで、阿倍野の自宅を出発した。
 
高速に乗り、知多半島へ向かった。
目的地は、東海近畿電力の知多研修所

昨夜、名古屋の電力会社の会長、美術品コレクター、知多半島の研修所でネット検索した。
 
すぐに答えが出た。
会長は、東海近畿電力の田ノ上会長。
研修所は、東海近畿電力・知多研修所。

田ノ上会長は名古屋財界のドンの一人。
社内では天皇と呼ばれ、絶大な力を持っていた。
   
美術品コレクターとしても、有名であった。
建設中の研修所は、会長のコレクションを集めた美術館という話も出ていた。
      
目的の研修所に到着したのは、午前9時前。

住所は、愛知県南知多町。
名古屋から南へ50キロ、知多半島の先端に位置する、風光明媚な町である。

初夏のような日差しが波と衝突、海はキラキラと輝いていた。
    
丘の上の建物は、噂どおり、美術館のようであった。
外観は、すでに完成していた。

しかし、玄関先に工事車両。
内装工事の作業員が、資材搬入のため、忙しく動き回っていた。
      
岩田は、カメラを首から吊り下げていた。
その服装も、カメラマン風であった。
     
作業員を指示している男に近付いた。
      
「あ、すいません。阿倍野データニュースいう雑誌のカメラマンです。マッホの絵の撮影に」
     
阿倍野データニュースは、雑誌ではない、岩田が開設した情報サイトである。地元・阿倍野のニュースを流している。
 
「まだ、納入されていない」
年配の現場監督は、迷惑そうな顔であった。

「納入されたと…」

「こちらには届いていない」
 
「研修所に展示されていないのですね?」
岩田が再度、確認した。
    
「ああ。3億の絵だから、内装工事が終わらなければ納入できない、そう言っていた」
      
(3千万円では無いのか?)

「3億円のマッホの絵は、いつ頃、こちらに?」
確認のため、3億円という言葉を付けて、尋ねた。

「画商は工事が終わってから、そう言っていた」
3億円という言葉に、何も反応しなかった。

缶コーヒー10本を現場監督に差し入れた。

「大阪の湯浅という画商ですね?」
    
「おう」
現場監督は缶コーヒーを開け、イッキに飲み干した。
   
「1週間前になるか…、田ノ上会長と共に来たよ」
現場監督が、シャツの胸ポケットから、小さな手帳を取り出した。

差入れの缶コーヒーが効いたのか、あるいは元々話し好きだったのか…。
とにかく、詳しく知ることができた。

 
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風景
南知多町:©愛知県
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知多市:©愛知県
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南知多町:©愛知県
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