名古屋駅前に到着したのが、昼の11時。
駅から東へ徒歩3分、大通りに面した一等地である。
全面ガラス張りの15階建て、中京総合ツーリスト本社ビルが建っていた。
スーツ姿に着替え、ビルの中へ入った。
(繁盛している)
一階は広い営業フロア。多数の客がいた。
カウンターも、すべて埋まっていた。
どう見ても、中堅では無く、大手の旅行会社であった。
会社の雰囲気を確認するため、ゆっくりと店内を一周した。
店内の偵察が終わると、係員に話し掛けた。
「大阪の探偵事務所の者です。ツアー中に殺害された人物のことで…」
係員は奥の部屋に飛び込み、しばらく戻ってこなかった。
その後、二階の応接室に通された。
ソファに腰掛け5分、2人の男が現れた。
一人は40代、細身で銀ぶちメガネをかけていた。
イカにも、タコにも中間管理職。
事実、名刺は中京総合ツーリスト総務部係長・山中進。
もう一人は30代、いかにもヒラ。
森のクマさん、といった容姿で、名刺は事業部・鈴木市郎。
「お亡くなりになられた、お客様のことで、そう伺いましたが?」
総務部係長の山中進が淡々と話した。
「はい。殺害された人物について、です」
「どういう経緯でツアーに参加されたのか、教えていただけないでしょうか?」
岩田も淡々と応えた。
「困りましたね。私共に関係することは、すべて警察に話しています。お答えして、よいものかどうか…」
総務部係長の山中進は、毅然とした態度であった。
隣に座っている「森のクマさん」は、何か言いたい様子。
しかし、係長に仕切られて、話すことはなかった。
「御社の植芝会長の知り合いですね、殺害された人物は?」
岩田がゆさぶりを掛けた。
二人の男に動揺が走った。
「くわしいことは、警察に…」
一転、総務部係長の山中進が慌てている。
(これ以上話をしても無駄)
そう思った。
中京総合ツーリストという会社の雰囲気など、十分収穫はあった。
ネットにも、会社がユスられているような話は出ていない。
今日、ここに来ても、そう感じた。
ただ、植芝会長の名前を出したときの「動揺」が、すべてを物語っていた。
岩田はビルを出た。
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名古屋駅前:©フォトック |
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名古屋城:©旅々 |
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