名古屋駅の西へ移動し、地下鉄「中村日赤駅」近くの駐車場に車を駐めた。
歩いて3分、目的のビルに到着したのが約束の10分前であった。
12階建てのビルの5階に「名古屋総合ツアーサービス」という派遣会社が入居している。太閤街道ツアーの添乗員が所属している会社であった。
昨晩、電話を掛けた。運のいいことに、話のわかる担当者が応対に出た。
『彼女なら明日、こちらの事務所にいます』
午後2時、派遣会社で会う約束をした。
エレベーターで5階に上がり、中に入った。
要件を伝えると、衝立に囲まれた応接間に通され、添乗員の小林優香(ゆか)と向かい合って座った。ストレートの黒髪が印象に残る、スラッとした美人であった。
「探偵さんが何か?」
小林優香が用心深く尋ねた。
「田々和かつ也について、です」
「?」
「有馬温泉で殺害された男です」
「フリーカメラマンの加藤様のことですか?」
「加藤は偽名です。聞いていませんか?」
顏を左右に振った。
(説明しても問題は無いだろう。彼女が事件に関係しているとは思えない)
6年前、身代わりで出頭したが、岩田に見破られ、組を追放されたことなど簡単に説明した。
「警察OBの方ですか?」
苦笑しながら肯いた。そして、絵を探していることを説明した。
「カメラ以外…」
持ち物はカメラバッグだけであった。
(場所を変えた方がいい)
派遣会社は絶え間なく電話が掛かり、社員は忙しそうに動きまわっていた。応接間を長時間、貸切りにするのは申し訳なかった。
「近くの中村公園に行きませんか?」
小林優香も周りの空気を読み、肯いた。
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名古屋:©フォトック |
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