中村公園は、名古屋駅から西へ約2キロ。
公園の中央に、豊臣秀吉を奉った豊国神社がある。
ここが秀吉の生まれた場所である。
正確には豊国神社の横、石碑が立っている地点だといわれている。
周辺には、秀吉ゆかりの建物や史跡が多数、存在する。
毎年5月第2日曜日には、ここで『太閤まつり』が開催されている。
岩田と小林優香は、徒歩でここにやって来た。
まず、神社におまいりし、その後、公園のベンチに腰かけた。
(ここなら、話ができそうだ)
周りに人はいなかった。
「太閤街道ツアーが最初に訪れる場所ですね?」
話のとっかかりをつくるための質問であった。
「はい。名古屋駅をスタートして、最初に訪れます。秀吉の生まれた場所ですから、当然と言えば当然なんですが…」
「地元の人にすれば、今さらですね」
岩田が先に言った。
「はい。そのため2日目から参加される方もいます」
小林優香の話のテンポがよくなった。
「和田かつ也も2日目から参加しましたね?」
すかさず、岩田が尋ねた。
「はい。本来は2日目の朝、岐阜駅でツアーに合流します。ところが…」
ツアー添乗員の小林優香が、和田かつ也の参加した経緯について、説明した。
(伊吹警部から聞いたとおりだな)
「旅行中、何か不審な点は?」
しゃべり方はソフトだが、質問内容は取り調べと同じであった。
「特に。ツアー中は一番後ろを。会話もあまり…」
「そういえば、携帯電話を気にしていました。何度か取り出しては、確認していました」
「教えていただけませんか?」
今度は、小林優香が改まって尋ねた。
「どうして殺害されたのか、私に責任があるのですか?」
思いつめた表情で、岩田に尋ねた。
「和田かつ也は、仕事でツアーに参加したと思います」
仕事はユスリである。
「問題はそのターゲット。現時点では…」
岩田はそう答えたが、半分はウソである。
ユスリのターゲットが木下藤吉郎陣営であったのは、ほぼ確実である。
(知らないほうがいい)
これ以上、彼女を巻き込みたくなかった。
「小林さん、あなたと関係無いことだけは間違いありません」
「あ、旅行会社の担当者ですが、お名前を教えていただけませんか?」
岩田が話をそらした。
「事業部の鈴木市郎さんです」
3時間前、名古屋駅前の旅行会社で会った。
「森のクマさんですね?」
ニコッと笑いながら、岩田が尋ねた。
「はい」
小林優香が少しだけ微笑んだ。
彼女を会社まで送ったあと、駐車場に戻った。
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名古屋・豊国神社:©愛知県 |
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名古屋:©フォトック |
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名古屋:©フォトック |
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