長良川温泉のホテルに宿泊した岩田は、朝6時に起床した。
そして、シャワーだけを浴び、部屋を出た。
ロビーに入ると、若い女性がソファから立ち上がり、岩田に近づいた。
ストレートの黒髪が印象的であった。
(小林優香!)
太閤街道ツアーの添乗員・小林優香である。
「昨日は、どうも」
岩田がそう声を掛けた。
彼女が立ち止まり、深くお辞儀をした。
「岩田さんと話が出来て、モヤモヤが晴れました」
昨日のオゾオゾした感じは消えていた。
「それは良かった。事件を気にすることはありません。小林さんとは違う世界の話です」
「お礼とは何ですが、少しお手伝いを」
小林優香がそう申し出た。
ホテルのティールームに移動して、話を聞いた。
小林優香は、旅行専門学校を卒業後、添乗員の派遣会社に入った。
給料は安いが、名古屋市内で両親と暮らしているため、なんとか生活ができるとのこと。
そんな中、あの殺害事件が起こった。
ショックを受け、事件以降、仕事を休んでいた。
昨日、岩田から話を聞けたことで、気持ちの整理が着いた。
また、話の内容から、岩田が太閤街道ツアーの行程に沿って、調査していると気付いた。
ツアー通りなら、このホテルに宿泊する。
昨晩、ホテルに電話をして、確認。
早朝、名古屋を発ち、このホテルへやって来た。
結局、小林優香が今日一日、岩田の手伝いをすることになった。
小林優香を助手席に乗せた車は、長良川温泉のホテルを発ち、国道21号線を西へ走った。
「昨晩、思い出しました。京都の醍醐寺を見学したあと、バスの後ろをバイクが」
「色はダークブルー。250ccか、400ccクラスのバイクだったと思います」
車の中で、小林優香が話し始めた。
「尾行していた?」
まっすぐ前を見て運転しながら、岩田が尋ねた。
「はい。有馬に向かう中国自動車道でも見かけました」
「どういう人物か、わかりますか?」
「フルフェースのヘルメットをしていたので、はっきりとは…。服装から若い男性だと思います。細身の」
小林優香が、割りと自信ありげに応えた。
「中京総合ツーリストについて、小林さんから見て、どう思われますか?」
「いい会社だと思いますが、植芝会長が一代で育て上げた会社ですから…」
「ワンマン体制は有名ですね。社員はイエスマンばかり?」
「はっきりと言えませんが…」
小林優香の曇った表情が答えであった。
|
|
|
|
|
|
長良川:©フォトック |
|
|
|
|
岐阜駅前:©フォトック |
|
|
|
|
岐阜駅前の織田信長像:©フォトック |
|
|