西区の七洋電子機械工業に到着したのは、午後3時前であった。
近くの駐車場に車を駐めたあと、隣のビルにある小さな喫茶店へ入った。店には客は無く、初老のマスターだけが居た。
カウンターに座り、コーヒーを注文。そして、さぐりを入れた。
「仕事で隣の七電に。やはり、社員はピリピリしているよ」
七電は七洋電子機械工業の略称。
「社長の話をしたら、顔色が変わってね。冗談も言えない雰囲気だった」
「そうでしょう」
マスターが食い付いた。話好きのようであった。
「昔はあんな会社じゃなかった」
ポツリと呟いた。
「大きな会社になりましたから…」
コーヒーをカップに注ぎながら応じた。
「出馬に反対する社員も、いないようだな…」
「営業にいた立石君が、ぼやいていましたね。今、秘書室で選挙のほうを担当しているようです」
コーヒーカップが岩田の前に置かれた。
「チーズケーキ、おいしそうだね」
ケーキの入ったガラスケースに視線を動かした。
「一つ貰おうか」
「しかし、立石君も大変だね?」
コーヒーを一口飲んだあと、話を再開した。
「そうみたいです。異動してから選挙関係の雑用ばかりだと、ぼやいていました」
「選挙関係は秘書室長と二人だけ、のようです。あちこちを走り回って、たまらないと」
カップを布で拭きながら応えた。
「二人だけとは本当に大変だ。講演会やパーティを連日開催しているのに」
コーヒーを飲み干した。
「もう一杯」
「本当に大変なのは、営業部のような気がします。エースの彼が抜けたら、売り上げも変ってくるでしょう。営業成績が毎年一番だったから、この店でぼやくことができます。他の社員ならアウトですよ」
マスターが右手で自分のクビをはねる『しぐさ』。うなずいたあと、チーズケーキをパクパクと食べた。
「どう思います?社長の出馬について」
「反対ですよ。社長がいるから持っている会社です。知事になったら会社の方がどうなるかわからないでしょう。万一のときは、うちの店も関連倒産ですよ」
苦笑するしかなかった。
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