太閤街道殺人事件
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岩田が大阪市中央区の『なにわ産業文化ホール』に到着したのは、午後6時前。

(すごい人気だな)
開演1時間前にかかわらず、ロビーは人が溢れていた。
     
今日と明日、この場所で『大阪のために今できること』と銘打った講演が開催される。
主催はなにわ未産会議、講演者は木下藤吉郎(ふじお)である。

岩田は、木下藤吉郎の周辺を探るため、ここに来た。関係者と接触し、話を聞く予定である。
    
しかし、人が多過ぎて…。
とりあえず、様子見した。

「岩田さん!」

(今日はよく声が掛かる!)
岩田が振り向くと、スーツ姿の若い女性がうれしそうな顔で立っていた。

「圭子ちゃんじゃないか。お元気そうでなりよりです」
岩田がそう声を掛けた。

「こんなところで…」
岩田がそう言うと、すぐに応対した。

「こんなところは無いですよ。今は政治担当ですから」
      
「あ、これは失礼…」
政治担当なら、ここにいるのは当然であった。
講演者は知事選に出馬予定の人物である。
      
山口圭子、Qnewニュース(くにゅーニュース)の記者である。
岩田が刑事をしていたときは、府警を担当していた。
   
歳は30前後だが、丸顔のため若く見える。20歳と言っても、通じるかもしれない。
      
大学時代は合気道をしていたらしく、体育会系。府警担当時代も、他の誰より活発に動いていた。
      
「いつから政治担当に?」
岩田が尋ねた。
      
「2年前から。岩田さんが府警をお辞めになられた直後です」
山口圭子が嬉しそうに返答した。

「知らなかったなあ〜」
懐かしさと嬉しさが、岩田の声に出た。
      
「探偵をなさっていると?」
山口圭子の追求が始まった。
   
「探偵とは仮の姿で、単なる隠居です」
岩田も嬉しそうに返答した。

「御隠居様が、こんなところで、どうなされました?」
山口圭子の追求が、さらに続いた。
   
「まいったな~。僕も大阪府民。もちろん、講演を聞くために、ですよ」
岩田が、わざと冗談ぽく応えた。

「プッ」
思わず、山口圭子は吹き出した。
    
岩田と言えば、出世とか、政治とかに関心が無く、ひたすら自分の仕事に邁進するタイプ。
  
そういう人物が講演を聞きに来ている。
記者・山口圭子には、捜査のためとしか見えなかった。

 
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大阪・中之島
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大阪市中央公会堂(中之島)
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