立石浩一はしばらく考えたあと、同じテーブルに着席した。
岩田が酒を推めた。
男の顔が、少しおだやかになった。
「あなたは本当に記者の方ですか?」
立石浩一がそう尋ねた。
「ええ。阿倍野データニュースというサイトの管理人になります」
「あ、結構人気のあるウェブサイトよ〜。おもしろい情報がいっぱい載っていて。優子もよくアクセスするんで〜す」
(助かった!)
うまく、優子ちゃんが合わせてくれた。
岩田のサイトに、おもしろい情報などは無かった。
「そうなんですか…」
立石浩一が小さな声で応じた。
警察か探偵、岩田をそのように思っていたようだ。
それは、それで正解であった。
「ネット上には、木下藤吉郎の話が山のように出ています。御存知でしょうか?」
岩田が静かに質問を始めた。
「少しだけ…」
「社長支持が多数です。ですが、掲示板に反対する意見も書き込まれています」
「それがどうも身内のようです。このままじゃ、うちの会社は倒産。こんな感じの書き込みです」
「失礼ですが、立石さんは七洋電子機械工業の元からの社員ですか、それとも選挙スタッフとして採用された方ですか?」
営業部のエースであったことはすでに知っている。
話の取っ掛かりを作るための質問であった。
「元からの社員です。半年前までは営業にいました」
「では、社長の知事選出馬に反対ですか?」
岩田の質問が続いた。
「反対です。正直、何を考えているのか、わかりませんね」
立石浩一がキッパリと言った。
「このままでは大阪が終わってしまう。それはよくわかります。だからと言って、社長が出馬することはない。今の状況では…」
「きびしいですか?」
「うちの会社は大阪の機械商社です。でも、大阪ではまったく機械が売れていません」
「笑い話のような事実です。取り引きの大半は海外と東海地区。業界では名古屋の会社と言われています」
立石浩一は真顔であった。
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